グローバルITプロジェクトというと、「英語ができない、どうしよう」と思う人も多いのではないか。日本語ができないプロジェクトメンバーとのコミュニケーションは英語を介してというのが必須ではあるが、一方で英語ができればよいというものではない。ITのプロジェクトであるから、ITシステム導入に関しての知識、経験が必須。そもそも、日本語で伝えたいことが頭になければいくら英語ができても、相手に英語で伝えることは不可能。

国内のIT導入プロジェクトでITの知識、経験がない人がプロジェクトの中核を務めるというのは考えられない。グローバルプロジェクトでも同様であるが、グローバルプロジェクトの場合、「英語ができる」というのが過度に重要視される傾向がある。

ITシステム導入プロジェクトの場合、重要なコミュニケーションは、開発標準で定められた文書になる。基本設計書、詳細設計書、テスト計画、データ移行計画など、そのプロジェクトで定められた標準に従って作成された文書により、システムが構築されていくわけで、これが正確かつ簡潔に作成されていることがプロジェクトの成否をにぎる。

最近、アメリカ人のプロジェクトメンバーに日本語で作成した仕様書についてレビューしてもらうことが必要になった。文書の書き方については、アメリカの企業で作成されており、他プロジェクトで作成された英語の文書を参考に日本の顧客向けに日本語で作成した。

かなり厚い文書となってしまい、翻訳するのに時間がかかる、アメリカ人のレビューを早急に済ませる必要があったため、Google翻訳を利用、おかしなところをチェックすることにしたのであるが、翻訳の質が高く驚いた。自分では書けないような立派な英文が生成されると感じた。固有名詞など、誤訳しそうな部分についてもしっかりと訳されている。AIの学習機能で誤訳修正を繰り返していった結果、精度があがってきたのではないかと思う。プロジェクトのアメリカ人も、日本で作成された文書をGoogle翻訳で英語に、二人でGoogleはすごいねと驚いた。日本語で作成した文書をGoogleで翻訳、気になったところがあれば随時指摘するから、翻訳は必要ないねと確認できた。

顧客は、日本の組織であったため、仕様書など、顧客に提出する文書は日本語で作成、Googleで翻訳したものを海外でチェックしてもらい、修正、最終版を提出することにした。そのため、翻訳作業が大幅に削減でき助かった。作業の負荷だけでなく、翻訳を介するとタイムラグが生まれてしまうが、これがなくなったのがスケジュールでは大きかった。

10年くらい昔であろうか、海外のプロジェクトメンバーに状況を知らせるため、日本語で作成した文書を翻訳ソフトで英語化、簡単なチェックだけして、送ったことがあった。参考までに、概要を把握してもらえればと思ったのであるが、意に反して海外メンバーから多くの質問が寄せられ対応に苦慮した経験がある。翻訳ソフトでは、かえって誤解が生じてしまうと感じ、以降は自身で翻訳するか、予算があれば翻訳会社に依頼するようにしていた。日本語版とは別に、状況を伝えるため、エッセンスを英語にして送ったのであるが、それなりに時間を取られることになった。

こうしたコミュニケーションの多くがEメールを介して、メールに添付文書として、また共有のドキュメントホルダーの保管先をメールに指定して読んでもらう。

英語で書くEメールについて何か留意することはあるのだろうかと思い、いくつか、英文Eメールの書き方を解説した本を読んでみた。クレームのとき、お礼を言うなど、ケースごとに模範的な文書が掲載されており、これが内容の過半を占めるが、ITプロジェクトの場合、そのまま参考にできるような文書は少ないと感じた。自動翻訳のレベルが上がった今、ネットで翻訳を実施すれば十分のように思う。

一つ参考になったのが、メッセージの最後に書く一言。これまで、深く考えないで、’Best regards’と書いていた、Googleの翻訳だと、「宜しくお願いします」と訳されるので、悪くはないのかとも思うが、シャーリー・テイラー著の「英文ビジネスライティング大全」というのをみると、「本当に必要なのか、冷たく感じる」と書いてある。Googleで「敬具」を英語に訳すと。‘Best regards’と訳されるが、日本語のEメールの最後に「敬具」とは書かないだろうから、少し場違いなことをしてきたのかもしれない。この本は、翻訳本なので、読者は、英語を母国語としている人が多くを占めるのだろうが、基本は、相手のことを考えて、わかりやすく簡潔に書きなさいと説いている。日本語で書く時も同じではないか。まして、ITシステムに関する文章であれば、簡潔で論理的に記載、必要に応じて、図表を用いて説明することが大切となる。