新規参入者との競争

松井証券にとっての競合は、同業他社よりも、新規参入のネット証券との間で激しかったといえます。松井証券がネットストックを開始した1998年の翌年には、マネックス証券、ソフトバンク・フロンティア証券(現SBI証券)などネット証券への参入が相次ぎました。既存の証券会社も遅れて参入、2006年には最大手の野村ホールディングがネット専門のジョインベスト証券を立上げ、参入しています。新たに誕生したネット証券という市場での競争です。参入には、多額のIT投資、そしてリスクと向き合うことが求められますが、新しいビジネスは、多くの新規参入を呼び寄せ、厳しい競争が起こります。セロから出発したネット証券には、証券外務員や実店舗などを持たないフットワークの良さが強みとなります。

インターネット取引では顧客が取引仲介を依頼する証券会社の乗り換えが比較的容易であり、他社への乗り換えは、手数料価格によりドライに決められていきます、このため、他社のサービスに転換するコストを低減させるといえます。取引手数料をめぐる価格競争が過熱、このなかで統廃合が繰り返され、業界内での淘汰がされていきました。

既存の証券会社との競争では、証券外務員を全廃する、ネットでしか注文を受けないという、既存のビジネスモデルを否定することで差別化を図った松井証券ですが、新規参入のネット証券との競争では、逆に老舗の証券会社としての蓄積で差別化を推進します。

 

松井証券はなぜ資本に勝る新規参入に対抗できたのか?

松井証券は、老舗証券として過去の顧客データを保有、手数料自由化、インターネット取引が開始される以前の顧客が、以降にどのように変わったのか、一日の取引数、取引銘柄など分析、個別取引ごとに取引金額に応じて課金する他社と異なり、ボックスレートという価格システムを適用したのです。1回あたりの料金ではなく、取引金額が設定範囲以内であれば3回までは、同じ手数料であるという定額料金体系を導入したのです。さらに、オンライン証券参入当初の1998年5月より、一定の委託保証金を証券会社に担保として差し入れることで、買い付けに必要な資金や売り付けに必要な株券などを借りて売買が行える「信用取引」を導入しています。これにより、顧客は手持ち資金以上の取引が可能となります。

これは、松井証券が長年蓄積した顧客データを分析、顧客のニーズを満たす独自サービスとして開発したものです。

松井証券がボックスレート、信用取引という独自戦略を打ち出す中、他社の多くは、1回あたりの手数料競争のなか、消耗戦を続け、やがて淘汰される企業、統廃合が繰り返されていきました。証券取引所にインターネット経由で取引をつなぐだけのサービスでは、価格以外に顧客に訴求するものがなく、体力勝負の手数料値引き合戦が継続していきました。

 

なぜ勝てたのか?

では、他社はなぜ松井証券と同様のサービスを打ち出せなかったのでしょうか?大きな要因の一つに、新規参入した他社の多くが、大手証券系のシステムを利用していたことがあります。松井証券は、証券会社としての取引システムは既に保有、インターネット取引部分のシステムを自社開発しました。ところが、新規参入の他社にとり、ゼロから証券システムを構築することは現実的でなく、大手証券系のシステムを利用してビジネスを展開しておりました。そのため、松井証券に対抗するようなサービスを打ち出すためのシステム改修は、難しかったのです。

 

手数料自由化のなか、インターネット証券では、手数料の値下げ合戦が展開、当初、松井証券もこの手数料値下げの競争のなかにいましたが、2001年1月には、手数料競争には加わらないことを宣言、長引く消耗戦から一線をおき、独自のサービスを展開していきます。