情報システムの構築は、人手による作業を代替することを主目的としてきました。給与計算、経理の集計、作表など膨大な手作業を人手から解放することに大きな貢献をしてきました。このようなシステムの構築は、現行プロセスを分析、手作業の部門を洗い出し、システムに置き替えるという設計で構築されてきました。システムのプロジェクトにつきものの、仕様変更、バグ、開発の遅れなどのリスクは伴いますが、時間をかければ完成でき、省力化の効果が生まれます。

一方、戦略的に情報システムを利用ためには、既存プロセスの大胆な変化が必要になり、失敗のリスクを伴います。給与計算のような限られた業務システムであれば、電卓をコンピュータに置き換えるようなことで済みますが、顧客に自社の端末を置かせてもらい、ここから直接注文を受ける、受けた注文を在庫情報から発注へと結びつけるなど、業務プロセスに大きな変更が必要となるケースでは、コストをかけ、他社と差別化しようとする決断には、コンピュータシステムを導入しても、顧客は入力することに同意するだろうか、システムダウンのときはどうするなどリスクも伴い、経営上の明確な判断が必要となるのです。

インターネットの黎明期、リクルートの江副浩正氏「かもめが翔んだ日」(2003年10月30日:朝日新聞出版サービス)のなかで、不動産業での先進的なIT活用について振り返っています。駅前の不動産仲介店にIBMのPCをリースで設置、リクルートのホストコンピュータと接続、物件情報や図面を送ることで差別化を試み、2年後には500店舗まで普及、ところが低価格のファクシミリが普及、PCのリース料が割高となり解約が相次ぎ、4年目で撤退となったとのことです。

単なる省力化にすぎないIT投資であれば、システム投資額と省力化効果、どれくらいの作業が削減できるのかという比較で投資の判断がされますが、戦略的なIT投資は、大きなプロセスの変更を伴い、リスクも伴うため、明確な経営判断が必要とされるのです。

戦略的なIT投資は、他社と差別化することに大きな役割を果たす、松井証券がネット専業の証券へと転換するというのは、大きな経営判断ですが、急成長をもたらす決断でもあったのです。

このように、ITが、企業を連携、膨大なデータを蓄積するように変貌した今日、戦略的にITを活用するためには、経営環境を分析、自社が成長するための方向を明確にし、これに向けてITを適用するための検討が必要であり、これがITマスタープランニングなのです。