システムを構築するには、ハードウェア、ソフトウェアの購入、システムを構築するエンジニアの費用、稼働してからの保守など、投資をともないます。このための社内稟議書作成が必須であります。一般には、ベンダーから取得した見積をもとにした総費用に対して、これを回収するための効果として、期待されるコスト削減効果をあげていきます。実際に算定可能なものを定量効果、算定できないが効果として期待できるものを定性効果として記載していきます。回収期間は、企業により異なるでしょうが、3年から5年程度でしょうか。

このような考え方は、経理、給与計算などの手作業を省力化してきたシステムには適合しますが、証券業界のネット取引化、小売りにおける中抜きなど、抜本的なプロセスの転換、業界内での生存をかけたIT導入にはなじまないものです。

伝統的なIT評価を背負い、経営戦略に疎いIT部門と業界のなかでの競争を肌で感じ、IT導入を推進したいという業務部門にあつれきが生まれる要因になります。業務部門は、「IT部門は、自社の置かれた環境がわかったいない」と嘆き、IT部門は、「業務部門が、IT投資の考え方を理解していない」と嘆く、この大きな原因は、すべてのIT投資、プロジェクトを同じようにとらえてしまうことに起因します。

このようなIT投資の効果算定では、効果的なIT投資を判断できないとして、2002年にMITのSloan Management ReviewにNew Approaches to IT Investmentという論文が掲載されました。(Winter 2002 SMR,Jeanne W.Ross,Cynthia M.Beath)

ITシステムの投資案件として、実際の開発リソースを大幅に上回る数のものが提出されている実態などふまえ、以下の4つに投資を分類して検討することが提起されています。

Transformational: ERP導入、データウェアハウス構築など、全社的な視点で検討されるもので、会社全体を望ましいビジネスモデルに向かわせる投資

Renewal:ベンダーのサポート切れなど、現行システムの維持

Process Improvement:顧客サポートのアウトソースによるコスト削減、経費申請を各社員に実施させるなど、業務改善に関わるもの

Experiments:新しい技術を評価し、ビジネスに活用する機会を確認する

このようなIT投資のタイプ別に、伝統的な投資の判断基準を単純にあてはめて考えるのではなく、新しい投資基準を設定すべきであるとしています。株や債券など、金融資産の投資と同じように、IT投資についても、ポートフォリオを構築する考え方で、どのような配分が自社に最適なのか?議論すべきでしょう。