メガファーマといわれる、多国籍製薬企業は、多くの合併、買収を繰り返して規模を拡大してきた。背景には、新薬の特許が認められるのが20年間、以降特許切れとなるとジェネリック薬品の販売が認められ、新薬の売上が急速に下降していくということがある。特許が切れて、新薬の売上が急速に下降することを「パテントクリフ」という。パテントは特許、クリフは崖、新薬の売上が崖から落ちるように下降することを比喩したものだ。

80年代、90年代、高血圧、高脂血症といった成人病向けの新薬を次々に市場に送り出したメガファーマであるが、2000年前後に生み出される新薬が枯渇してしまった。一方で、大型新薬の特許切れが迫り、売り上げが急下降するのは避けられない、そのため有望な新薬を持つ企業を探索、買収して売り上げを保とうとしたのである。

この急先鋒が、米国ファイザー社、買収を繰り返して規模の拡張を続けることを「ファイザーモデル」とも呼ばれた。大型新薬のなかでも群を抜いて大きな売り上げを誇ったのが、ファイザー社が保有するリピトール、この売上が下表である。(ファイザー社サイトからのデータで作成)

2011年に、1ドル百円で換算すると、アメリカ市場で約5,000億円の売上が翌年には、932億円、3年後には、242億円まで落ち込んでいる。世界全体では、2006年に約1兆3千億円だったものが、8年後の2014年には、約2,000億円程度に落ち込んだ。1兆1千億の落ち込みは、日本企業でみると2020年の味の素の売上と同程度、これが一つの医薬品の売上と考えると、その規模の大きさがわかる。

では、ファイザー社全体の売上はどうだったかが以下の表である。(ファイザー社サイトデータから作成)2006年に、4兆8千3百億円だったものが、2014年に4兆9千5百億円、リピトールの売上減が補完されていることがわかる。ファイザーは、2009年にアメリカのワイスを買収、翌2010年には、約6兆8千億の売上となっている。2007年に、約1兆8千億円で世界9番目であったワイス社の売上が加算され、ファイザー社の売上が伸びた。

2000年にスミスクライン・ビーチャムとグラクソ・ウエルカムが合併、当時、世界最大の売上となった英国グラクソ・スミスクライン社でも同様のことが起きている。

サイト資料(https://www.gsk.com/en-gb/investors/speeches-presentations/?y=2010)では、パテント切れにより、2006年パキシル他8薬品合計で4.6ビリオンポンド、売上全体の18%を占めていたものが、2009年には、0.7ビリオンポンド、売り上げ全体の2%にまで落ち込んだとある。1ポンド、140円として、約6千億円の売上が、約1千億円程度にまで落ち込んだと考えられ、この落ち込みを予見しての合併だったといえるか。