情報サービス産業のなかで、過半を占める受託ソフトウェア開発で、売上高を伸ばすには、自社技術者数を増加させる、自社技術者の単価を上げる、他社の技術者を外注として組み入れることがある。

システムは、開発フェーズと開発されたシステムを維持管理するフェーズに分かれる。開発フェーズでは、プロジェクトの期間だけシステムエンジニア、プログラマーが必用とされるが、維持管理フェーズに移ると、一定人数の技術者が常時、組織変更などの内部環境の変化、規制要件などの外部要件の変化に応じて、システムの改修を実施、またトラブルなどの緊急対応も担当する。そのため、維持管理フェーズのビジネスは、一度受注すると安定的かつ中期的に確保できる可能性が高い。反面、新規開発に比べ規模が小さく、人月単価も低く抑えられる傾向が強い。

技術者については、経験、保有技術の希少性、顧客業務への理解などから契約単価が高くなっていく。プログラム全体を管理するプロジェクトマネージャーなどの経験が求められる職種は、プログラミングを実施するプログラマーなど経験が浅くても対応できる職種より高い契約単価となる。

これ以外の要素として、経験などにより蓄積されたナレッジがある。会計、人事などの業務に関する知識、経験、証券業、製薬業などの業種に関する知識、経験、ハードウェア、ソフトウェアなどの技術的な知識、経験がプロジェクトを受注するための競争に勝つ要素となり、また受注金額を上げ、利益率を向上させる要素となる。

以上をまとめると、受託開発での売上を大きくするには、社員数、平均単価、稼働率、社員一人あたりの外注比率、ナレッジ(業種、業務、技術などの知識、経験)が主要な要素となる。ナレッジについては、業種、業務に特化したソフトウェアとして、ある程度ソフトウェアとして制作しているものをソリューションなどの名称で蓄積しておき、これを顧客のプロジェクトに適用することで、受注の競争力を高め、受注単価を上げることができる。

富士通、IBM、日立、東芝等、ハードウェアを供給するベンダーは、顧客との関係も強く、プライムベンダーとしてプロジェクト全体を受注することが多い。また、NTTデータ、野村総合研究所なども、顧客がどのようなシステムを導入すべきか検討する計画段階、コンサルティングフェーズから受注する力があり、同じようにプライムベンダーとして全体を受注することが多い。

新日鉄住金ソリューションズといった、ユーザー系といわれるベンダーは、親会社のシステム開発プロジェクトでは、当然プライムベンダーとしてプロジェクトを受注する。

公共プロジェクトでは、原則競札となるが、過去の実績等も評価されるため、こうした大手ベンダーが落札する確率が高くなる。こうした大手ベンダーが受注したプロジェクトを中堅ベンダーが下請けとして請負、さらに最下層では、5人以下の小規模ベンダーが仕事を請け負う。階層が下になるに従い、受注単価は低く抑えられる。

大規模プロジェクトを受注するには、顧客への提案活動など、営業活動が必須、激しい競争も避けられない。以上を図式化すると下のようになる。

こうした受託開発に比べて、パッケージソフトウェアの販売は、ゲームソフトウェアの販売に近く、人月単価には依存しない。そのため、ヒットすれば大きな利益が見込めるが、失敗するリスクも高く、販売増には、広告宣伝費を含め、マーケティング活動が不可欠である。また、言語、商慣習、国内の顧客と密着した作業など、外資系企業にとっては大きな参入障壁がある受託開発と異なり、パッケージソフトウェアでは、グローバルで大きなシェアを持つ外資系企業との競争も視野に入れなければならない。

情報サービス産業に属する企業が収益性を高くするには、プライムとなって大規模開発プロジェクトを受注する規模の拡大が一つであるが、一方でソフトウェアパッケージを開発、顧客の要件に応じて制作するオーダーメード型の受託開発に比べて、急成長する可能性のあるパッケージソフトで競争力のある製品を生みだし、成長するという方向もある。パッケージソフトの開発には、先行投資が必用であり、広告・宣伝などのマーケティング活動も必須、ゲームソフトの開発、販売と同じようにヒットすれば大きいが、容易ではないビジネスである。