McGRAW-HILLから出版されている「Corporate Information Strategy and Management」の第六版に掲載されている、米国Tektronix社のグローバルERP導入プロジェクトをみてみる。(記載は、少し古いが2000年ころとなる。)

1946年創立のTektronixは、オシロスコープでは、世界のリーダー、60か国に製品を展開している。しかし、グローバル競争の中、財務面では困難に直面しており、抜本的なビジネスプロセスの見直しが急務、これを遂行するのが大規模なITシステムの統合と考えられていた。

数十年にもおよぶ、散発的なシステム開発は、米国だけでも460の社内システムを運用するようになり、グローバルでも標準とされるシステムが存在しないため、受注の入力を異なるシステムに何度か入力しなければならない、在庫の量もはっきりしない、受注入力のミスも発生、受注時点で、該当する顧客から発注された総額がリアルタイムで集計できない、また財務会計では、複数の勘定科目表が利用されており、月次決算の締めに2週間を必要とする。どの事業部のどの製品の収益が良いのかも不明であった。

Tektronixは、新システム導入にあたり、3つの方針を建てた。3つの事業部門は、異なる販売、物流方式を持っており、システムとして独立性を維持する。一方、共通化できる業務処理は、シェアドサービス化していき、コスト削減を促進する。最後に、システム導入にあたっては、極力追加開発を少なくして、維持管理を容易にする。

このような考えで、ERPパッケージを選定、一つの事業部で、導入していたパッケージはあったものの、オラクル社のERPパッケージを採用することで決定した。スコープとしては、財務会計、これに加えて、受注、売掛処理、ERPパッケージのロールアウト、展開は、財務会計を最初に、次にUSの3つの事業部門、MBD、CPID、VNDに向けて、受注、売掛処理を展開、最後にUS以外の海外に展開するという計画。

財務会計の展開にあたっては、勘定科目の統一を図り、複雑な移転価格処理の簡素化、管理者がタイムリーに損益を把握できることを目指した。米国内での展開を終了してから、EUへの展開、システム導入前に各国のカントリーマネージャー職を廃止、EUを一つの組織として統合、営業が顧客と会話する以外は、英語を社内共通語とした。経理処理の各国での拠点は閉じ、英国の拠点に集約した。実際の導入では、各国固有の要望などが挙げられたが、規制要件に関わるものではなく、商習慣によるものが多いと判断、最低限度の追加開発にとどめ、以外は業務プロセスの変更を求めた。

こうした導入には、オラクルERPに詳しいコンサルタントに加え、データ移行や帳票開発のプログラムなど、スキルに応じて、別の企業を外注化した。

受注、売掛金処理では、3つの事業部門に向け個別に導入していった。消費者むけの製品を扱うCPID事業部は、オラクルのERPにフィットしていると想定していたが、最初の導入となったこともあり、予定の期間を超過して導入、次にMBD事業部の導入にあたったが、現行地域の代理店経由での受注を顧客からの直のオーダーに切り替えるというビジネスモデルの変更は、事業部内で大きな反発を招き、ビジネスプロセスの変更、これに伴うシステムの改修を重ねることとなった。最後のVND事業部は、一番小さな部門であり、2つの事業部門での経験もあり、短期間で実施できると見込んでいたが、複雑な製品を扱っていたこと、最近買収した製造会社とのビジネス統合の最中であったことから、予想外に時間が取られた。

3つの事業部門への導入を終え、海外への展開となった。

最初にEUに導入、つぎにEU以外の国への導入というプロセスで進めていった。カナダ、メキシコ、ブラジルには地域的に離れていることから、各国ごとの導入となった。

アジアでは、英語圏のシンガポール、インドから導入、次に韓国、台湾、香港、そして、日本、最後にオーストラリアへの導入を進め、23か国に500日以内での導入、ビッグバンの導入を成功させた。

システム導入の結果、世界のどこにどれくらいの在庫があるのかタイムリーに把握できるようになった。一つの事業部門では、受注から即日での出荷が、15%から75%にあがった。

また、定量的には把握が難しいが、ERP導入は、各所で効率化を促進している。