「DX実行戦略」という本をざっと見た、目次を見るとデジタル化の記述がなく、ピンとこない。翻訳本で、英語のタイトルは、「Orchestrating Transformation: How to Deliver Winning Performance with a Connected Approach to Change」という、「変革を編成、指揮する:変化に向け社内のリソースを結合させることで、競争を勝ち抜くパフォーマンスをどう実現するか」ぐらいの意味であろうか。これなら、目次、内容とぴったりきてよく理解できる。DXというのも、バズワード、はやり言葉といえないか?

今AIは、三次ブームだそうで、二次AIブームのときに、配船計画というのにAIを適用したというのが話題になった。当時のAIは、ルールベースで、専門家の知識をルール化、AIに取り組むことで専門家の判断がシステムで自動化できるというのが売りだった。船が製品を積む、これを輸送、積み荷無しのカラで帰ってくるのはもったいないので、帰りも原料など積み込んで帰ってくることを計画するのは複雑で専門的な業務、これをルール化することで、AIでも配船計画が立てられるようになったとのことであったが、その後、AIはコンピュータのリソースを消費しすぎるので、通常のプログラムで組み直した。AIでなくとも、普通のプログラムでも実現可能なことだったのだ。

ERPが日本企業で使われ始めたころ、どうみてもERPではなく、スクラッチ、独自システムとして開発したほうがよいようなケースがあった。ERPの画面では、使いにくく、独自の画面を開発して入力データを外部のDBに蓄積、これをERPのDBに流し込む、出力もERPの帳票では対応できないので、独自開発で帳票を作成するというものだった。なんでそんなことをしたのかと聞くと、専務の意向でERPを利用することが必須になっていたようである。外部にDBがあるので、そこから帳票出力すればよいのだが、ERPを使うためにわざわざERPのDBを通過させる、大変な無駄である。

ERP適用では、他にも同じような例が多かった。ERPで企業情報の流れを最適化するのではなく、ERPを導入することがゴール。目的と手段が逆転、DX戦略でも同じようなことが起きているのではないか?AIだ、IOTだとデジタル技術の進展、適用により企業を取り巻く環境が変わり、企業間競争の要件が変化していく、これに勝ち抜くためにトランスフォーメーションが必須。トランスフォーメーションが目的で手段の一つがデジタル化ということなのだろう。

2000年前後にあった、金融ビッグバンで、小規模な松井証券は、対面での証券営業をやめ、ネット専業証券にトランスフォーメーション、多くの証券会社が廃業していくなか、成長を遂げた。この陰には、その変革を推進する強力な力が必要、自分の仕事がなくなる営業マン、営業部門からは大きな反発があったが、これを押しのけて進めた社長のリーダーシップがあった。雇われ社長では、難しい決断。証券会社は、取引を仲介、その生命線が株に関する情報、予測であり、これを持って富裕層を中心とした顧客を訪問、株の取り引きを仲介する。営業マンを全廃することは、こうした富裕層を中心とした顧客を失うことを意味する。もちろん、松井証券でも対面営業に加え、コールセンターで電話による取引注文を受けるという仕組みを構築、この成果を見ながら、インテーネット専業への切り替えを進めていった。

DX化の本質も、社内のリソースを変革に向け同じ方向に向け動かしていく実行力にあるのだろうけど、日本の大企業では多くのケースで内部昇進を経て社長になる。このような社長が多くの抵抗勢力を作る変革を推進できるのか?

武田薬品がシャイアーを買収する決断をできたのは、外部から招いたクリストフ社長以下の体制だったからだといわれる。創業の地である大阪本社の上に、東京にグローバル本社が誕生、変革を推し進めるための組織であり、創業家他からの猛反対を押し切ってのことである。グローバル化が進み、世界全体の市場が統合されていくなか、生き残っていくには変革が必要、その実行力を組織に宿している企業が勝ち残っていくのだろう。