今ではすっかり定着した、ERPシステムは、Enterprise Resource Planningシステムの略、統合された全社システムで、ドイツSAP社の製品に代表される、経理、人事、購買、販売、生産などの各システムが統合された形で提供されるパッケージソフトウェアを意味します。SAP以外にも、米国オラクル社の製品など、1990年代に、海外から日本にはいってきました。
あるERPパッケージソフトの取引先マスターに「少数民族」という項目がありました。
取引先企業が少数民族であるのかどうか?を入力していくようなのですが、日本では必要ありません。調べてみると、当時アメリカのカリフォルニアでは、アファーマティブアクションという法律があり、一定の割合で黒人やイスパニックなどの少数民族が経営する企業との取引を実施しなければならない、そのために必要なフラグであるということがわかりました。
もちろん、海外展開する企業であれば、米国法人などで利用価値はあるのでしょうが、日本でのビジネスには全く必要ないものです。このように、導入作業を進めていくと、パッケージの機能は、かなり日本の規制要件、商習慣とかい離があるとわかってきました。現在では、製品機能も変わっているでしょうが、日本に紹介されはじめたころのERPシステムは、日本語化はされているものの、日本化が不十分、日本企業が導入するには、追加での開発に大きなコストと期間を要するものでした。
しかし、日本特有の欧米信仰なのか、ソフトウェアに過大な期待をしてしまう傾向があり、導入に踏み切ったものの膨大な追加開発から導入を中断するプロジェクトも少なくありませんでした。
ERPにあわせ、ベストプラックティスという言葉をよく耳にしました。「世界中の企業のプロセスを研究、そのなかから最高のプロセスをソフトウェアにして実現した」というような意味合いで使われておりました。建設会社の経理部長さんも、このベストプラックティスの一つ、管理会計に魅せられてしまったのでしょうが、ベストプラックティスなど、各企業が実際のビジネスのなかで試行錯誤、獲得していくもので、ソフトウェア導入で簡単に手に入れられるようなものではありません。
あるERPシステムの機能に「カンバン」と称されたものがありました。トヨタのカンバン方式、間違いなく世界のベストプラックティスの一つ、カンバン方式の名前が付けられているものです。しかし、カンバン方式は、単なるソフトウェアの問題ではなく、トヨタの下請けグループ企業と密接に連携、むだなく部品が製作され、供給される仕組みのこと、ソフトウェアを導入したくらいでまね出来るようなものではないのです。
企業文化、従業員の質などすべて備わっていなければ難しい、事実、カンバン方式を試みて失敗した企業が多く存在するとのこと。単にソフトウェアを導入すれば実現できるものではありません。
IT経営など、誤解を抱かせるのかもしれませんが、ソフトウェアを動かすのは、各企業の戦略、考え方、方針なのです、企業の戦略、方針があってはじめて、IT戦略が策定できるのです。自社は、どのような方向を目指すべきなのかという明確な考えがなければ、ITを導入してもこれを活かすのは難しい、かえって混乱を招くだけに終わる可能性も高い。パッケージソフトウェアが豊富に提供され、利用しやすくなった今日でも、IT導入を成功させるには、しっかりとした計画化が必要です。