IT導入には、十分な時間、期間そしてコストが必用となります。このためには、3年程度の中期的なロードマップを共有するためのマスタープランが必要です。しかし、こうしたITマスタープランが立案されているケースは多くないようです。マスタープランは、単なるIT予算計画とは異なります。なぜ策定されないのか、一つには戦略部門とIT部門のあつれきがあります。

ITシステムの導入計画を立案するときに伝統的に利用されてきた主要な指標は、生産性の向上です。何人月の工数が削減できるというもので、細かなプロセスを積み上げて、これまで人手により作成されてきた帳票がシステムで出るから、0.5人月削減できるなど、年間で3人分の作業が削減できる、この3人分の人件費は、1千万、今回のIT投資は、3千万であるから、この投資は3年で回収できるというようなものです。実際には、本当に3人が削減されるのか?雇用の問題に関わることなので、別の問題として処理されます。

システム化が進んでいる企業では、なかなか省力化のたねというのは見つからないものです。大企業の情報システム部門は、こうした投資効果により、多くのシステムを導入、維持することを旨としてきたのです。

一方、企業の戦略に密接に関わるIT、証券会社にとっての、ネット証券導入のためのシステム、ネットショッピング導入のためのEコマースシステム導入などは、省力化効果では評価できない、事業投資のなかの一つの項目として評価すべきもの、事業部門が全面に立てとりまとめることが必要になります。

かつて、IT部門のマネージャーとして着任したときに強く感じたのは、他部門とのあつれきでした。システム化予算とITの専門知識を盾にして、ITを利用する部門に対して、優位なポジションを取ろうとしているIT部門、これに反発、難解はIT用語を振りかざして、適切なサービスが提供されないというユーザー部門、IT部門としては、ユーザー部門から発せられる要求をただ提供する下請けのようにはなりたくないという思いがあるのでしょう。

最近では、インターネット経由で経理や人事といった基幹システムが利用できるようになった、SAAS(Software As A Service)といわれるサービスも一般的になりつつあります。システム部門がゼロからヒアリングを実施、社内専用システムを構築するという機会は減少していきます。こうしたシステムの導入にIT部門は、主として既存システムのデータ移行、そしてITのSecurity、特に社内情報が適切に扱われるのかについては、全てユーザー部門任せにはいかない、導入されるサービスのチェックを行う、システム導入のわき役になっていきます。事業部門とIT部門のあつれきを大きくしていく傾向に拍車をかける恐れがあるのではないでしょうか?