「会社を元気にするIT」が実現可能となってきたのが、インターネットが普及、ビジネスに大きな影響を及ぼし始めた2000年前後、「会社を元気にするIT」は、大きなビジネスプロセスの変革を伴い、かつリスクを伴うもの。明確な経営戦略と連動してはじめて実現されるものです。そのため、「会社を元気にするIT」を実現できる会社と実現できない会社の差が開いていく時代の幕開けでもありました。

 

早稲田大学ビジネススクール、平野雅明教授は、著書「IT投資で伸びる会社、沈む会社」のなかで、IT投資を活用して成長する企業とできない企業の差について、「組織IQ」の差がその決め手になると、実証分析の結果を説明しています。この組織IQとは、外部情報感度、内部知識流通、効果的な意思決定機構、組織フォーカス、継続的革新の5項目からなる、組織の能力を表すものです。このレベルが低ければ、せっかくのIT投資を活かすことができないのです。組織IQをまとめると、顧客、市場の動きに高い感度があり、組織内に意思決定のための情報が流通している、これを受けての的確で責任ある意思決定が迅速に下され、組織が戦略で定められた方向に向かっており、継続的にイノベーションが行われている。IT投資でなくとも、よい会社の条件のようにも思われるのですが。

すでにみたように、インターネット以降のITは、これまでのビジネスを大きく変化させ、業界構造に大きな影響を及ぼしました。例えば、証券会社でネット証券への進出を検討しようとすれば、証券会社の営業、外務員の仕事を奪うようなことになる、このような考えを社内で打ち出すことができるでしょうか。これまで長い取引を続けてきた問屋との取引を中止、自社で販売まで手掛けるようなモデルを検討、トライしてみようとの考えを打ち出すことも、容易ではありません。もし、トライするのであれば、大きなリスクを伴うことにもなるでしょう。

しかし、ITが業界に大きなインパクトを与え、構造を変化させていくのであれば、既存の組織、取引慣行などを超え、ITが生み出した機会を新たに利用、成長しようとする考えが組織の中に生まれてくる必要があるのです。この柔軟な発想を支えるのが、「組織IQ」なのでしょう。

あのユニクロであっても、多くの失敗から成功をつかみ取ってきたのです。非常に流動的な外部環境のなかで、ビジネスを成長させるためには、多くのアイデアを生み出し、これを試し、試行錯誤を繰り返す、失敗しながら、成功の道筋を見極めるしかないのです。ITを戦略的に活用するのであれば、当然失敗の可能性を含んできます。また、既存の組織、業界慣行を乗り越える、抵抗に打ち勝つことも必要になります。このようなことを組織として許容できるのか、後押しできるのかが、組織IQなのでしょう。

 

これは、ITに限った話ではありません。それなりの企業規模であれば、過去の成功物語があり、成長、現在に至っています。企業の中にはこれを守ろうとする動きが強くなります。前例のない試みを打ち出せば、失敗したらどうするのか?そんなことは、前例がない、など社内の大きな抵抗を受けるようになります。

業界が大きく変化していくなか、変化に応じていく他企業に取り残されていくことになってしまうのです。