松井証券のネットストックを「会社を元気にするIT」の一つの例として紹介しました。しかし、それがなぜ「会社を元気にするIT」なのか、ITシステム導入の歴史から考えてみましょう。
ITシステムの導入は、会社内部のプロセスを自動化するところから始まりました。ITシステムといえば、経理システムのように省力化を進めるものと考えておられる方も少なくないでしょう。
先進的な企業では、40年前の1970年代から、その他の企業でも1980年代、コンピュータの導入が積極的に進められていきました。ほとんどの企業では、最初に、給与計算、経理の記帳や作表・集計業務がコンピュータ化のターゲットになりました。コンピュータ導入前、各企業では、月末の給与支払い前、多くの事務員がソロバン片手に、社員の残業時間などをもとに、給与計算を実施、給与明細作成、さらに現金の袋詰め作業などを実施していました。犯罪史に残る3億円事件は、1968年、東芝社員のボーナスを運ぶ現金輸送車から、現金が持ち去られた、この時代は、大企業でも給与は、現金で支給されていたのです。
時代の変遷とともに、ソロバンが電卓に代わったものの人手による計算は変わらず残っておりました。ところが、コンピュータを導入すれば、残業時間など投入するだけで、自動的に給与計算、さらに給与明細が作成されるようになったのです。これにより、給与計算をするだけの単純作業がオフィスからなくなり、人件費を大幅カットできるようになりました。
すでにみたように、経理のシステム化も単純計算、作表などの事務作業をコンピュータに置き換える形で進められていきました。大幅なコスト削減が可能になるということで、企業は競ってコンピュータの導入を決断していきました。この時代のコンピュータは、主として企業内の単純作業自動化が目的、コンピュータの処理能力、ネットワークの限界もあり、自社の限られた業務に適用、異なる企業間や顧客との情報連携には利用できませんでした。
ところが、1980年代後半から、1990年にかけ、戦略的情報システムというコンセプトがアメリカから入ってきました。SIS(Strategic Information System)、これからは、業務効率化のためだけでなく、戦略的に情報システムを使う時代、事例として、アメリカンホスピタルサプライとアメリカン航空の事例がよく引き合いにだされました。
病院で利用される医療器具などを販売していたアメリカンホスピタルサプライは、主要顧客である病院に専用端末を設置、電話やFAXではなく、直接オンラインシステムからの医療器具発注を可能にしました。アメリカン航空は、大きな旅行代理店に自社のコンピュータ端末を設置、アメリカン航空社内システムの一部である発着情報を検索可能としたことを皮切りに、旅行代理店からのオンラインによる予約を可能としたのです。
ところが、手作業の自動化を主目的として社内システムを構築してきた多くの日本企業にとって、経営戦略のためのIT活用といわれても具体的にどうすればよいのか、理解し難いものでした。事例として紹介されたアメリカンホスピタルサプライ、アメリカン航空も、同業他社が顧客先に端末を設置するなどして、徐々に競争優位が失われ、ITによる競争優位は長続きしないともいわれました。