業界の環境がどのように変化していくのか、ITがどのようなインパクトを与えるのかを分析するのに、マイケル・ポーターのIndustry Competition Analysisのフレームワークを適用することを考えてみます。
ポーターのモデルでは、5つの力、Five Forceが業界の競争環境を構築するとしています。
・新規参入の脅威
・業界内の競争
・供給業者との交渉力
・顧客との交渉力
・代替製品の脅威
証券業界が直面した、金融ビッグバン当時の業界をこのフレームワークでみてみることにしましょう。
新規参入の脅威ですが、規制緩和により、銀行業、異業種からの参入が大きな脅威となります。インターネット専業の証券会社も参入してきます。
業界内の競争は、手数料自由化により、非常に激しい状況となります。
顧客にとっては、手数料の自由化、インターネットにより注文など、取引手数料の引き下げが促進、また新たに参入した証券会社からのサービスもあるため、選択の幅が大きくなり、顧客優位の状況となります。
原材料を仕入れ、加工して製品にする製造業と異なり、証券会社の場合、仕入先との関係は大きなインパクトはないと考えられます。証券取引所へ支払う手数料なども、交渉により変更するものではないでしょう。
代替商品、サービスの脅威ですが、インターネットによる取引が挙げられます。取引価格の自由化とあいまって、これまでの営業員により注文からインテーネットでの注文が脅威となってきます。また、自由化により新たな金融商品の開発が加速化し、これも脅威となってくるでしょう。
この競争モデルのなかで、ITがどのようなインパクトを与えるのか?以下の5つの質問により分析していきます。
ITは、付加価値を生み出す活動をリエンジし、競争の基本的な条件を変化させるか?
ITは、買い手、売り手との関係、パワーバランスを変化させることができるのか?
ITは、新規参入のバリアを築くことができるのか
ITは、顧客が競合他社のサービスにスイッチするコストを減らすか?増やすのか?
ITは、現在の製品に付加価値をつけるのか?新たな製品を生み出すのか?
証券業界での株の売買は、証券外務員が顧客を訪問、顧客に株式に関するさまざまな専門知識を提供し、実施されてきました。証券外務員の力量が競争の大きな要件であったのですが、インターネット証券では、証券外務員は仲介しないため、取引の価格、ならびにサービスの質が基本的な競争要件となります。
インターネット証券では、手数料も安く、顧客は取引価格、サービス内容により容易に、取引する証券会社を変更することができる、このため顧客優位の状況が作られ、パワーバランスが変化します。
新規参入の障壁という意味では、規制緩和が大きな役割を果たすのですが、インターネット証券への参入という意味では、オンライン証券の仕組み、安定した運用、十分な応答速度など、金融庁の厳しい条件を満たすシステム構築は、容易なものではなく、また大きな投資を必要とするものでありますから、特に中小証券にとっては参入に障壁となりえます。
また、証券外務員が訪問することなく、取引の開始、注文ができるインターネット証券は他社サービスに移行するコストを減らす、顧客にとってメリットを生むものとなります。
ネット証券は、ネット上のさまざまなサービス、技術進歩と結び付けることで顧客へのサービス向上にも結び付くことから付加価値を生み出す源泉ともなりえます。
松井証券は、この業界の変化、ITが与えるインパクトを読み取り、独自システムでネット専業の証券会社として競争に参入、独自システムの利点を活かして、他社が提供できないサービスで差別化、価格競争に巻き込まれない独自の課金モデルにより、競争のなかでの成功をおさめたといえましょう。