リクルートの創業者、故江副浩正氏は、著書「かもめが翔んだ日」(20031030日:朝日新聞出版サービス)のなかで、不動産業での先進的なIT活用について「日本初のネットビジネス」として振り返っています。日本でも、このSISを試みた事例といえます。1983年、駅前の不動産仲介店にIBMPCをリースで設置、リクルートのホストコンピュータと接続、「住宅情報」の発刊を通じて蓄積した物件情報や図面を送ることで差別化を試み、2年後には500店舗まで普及、ところが低価格のファクシミリが普及、パソコンのリース料が割高となり解約が相次ぎ、4年目で撤退となったとのことです。

インターネットが出現する前にいち早く戦略的なITを試みた事例といえます。今では、不動産業は情報産業、地図情報システムと連携、賃貸物件など詳細な情報がインターネットで入手可能となりました。リクルートの試みは、少し早すぎたのでしょう。

 

インターネットがビジネスに与えたインパクト

 

ITシステムの戦略的な利用への転換が必要だと言われても、具体的にアクションに結びつかない企業が多かったなか、90年代後半から急速に普及していったインターネットがビジネスに大きなインパクトを与えるようになっていきました。

1999年6月、アメリカの経済紙、BusinessWeekInternet Anxietyという記事が掲載されました。「インターネットの不安」とでも訳せるのでしょうか。おもちゃのトイザラスは、これまで大手スーパーのWallMartTargetと競合してきたが、1998年クリスマスにネット上のeToysにクリスマスセールの最初の日に販売額で抜かれた。その前年のeToysの売り上げは、トイザラスの2店舗程度しかなかったわけで、実際に店舗をもった販売であればこのように急速な成長はできない。ネット企業の場合、目に見えないで突然ネット上にあらわれ、顧客を奪っていく。既存の大手企業にとっては、大きな不安、Anxietyを抱える要因になるというものでした。

この、eToysは、2001年にインターネットバブル崩壊のなかで、倒産、2006年にはトイザラスに買収されていくのですが、既存のビジネスにとってインターネットがどのような影響を及ぼすのか、大きな不安がもたげた時代でした。

インターネットが本格的に普及する時代になり、ITシステム構築は、経営戦略を実現する道具として活用できるようになってきたのです。すでにみた松井証券はその代表例といえます。

インターネットは、ITシステムが省力化だけでなく、ビジネスモデルの革新、新たなビジネスを起こす道具へと変貌させたのです。