ネット証券への転換は、容易なのか?

といっても、ネット証券への転換は容易なものではありません。日本証券業協会の調査によれば「インターネット取引調査結果」平成249月末によれば、調査対象会員268社のうち、61社がインターネット取引を実施していると回答しています。逆に、インターネット取引を実施していない証券会社のほうが圧倒的に数は多いのです。インターネットトレードシステムの構築は、多額の投資を必要とするものであり、中小証券会社が決断するのは容易でありません。

かつての準大手の一つ三洋証券は、積極的なIT投資により、世界最大級の大規模トレーディングルームを構築、取引量の増加に対応できる体制を取る積極的な投資戦略を取りましたが、バブル崩壊から取引量が伸びないなか、1997年経営破たんしました。企業規模に見合わない、IT投資が破たんの一つの要因となりました。

 

松井証券は、1992年3月期、バブル崩壊で、赤字、支店を相次いで閉鎖、営業マンによる訪問営業を全面廃止、広告と電話、証券マンのしつこい営業をきらう投資家から徐々に受け入れられていきました。

1996年には、インターネット取引のプロジェクトチームが、先行する米国のネット証券イー・トレードを訪問、システムのレンタルについて高額なパテント料を提示され、自社開発を決断、1998年「ネットストック」というインターネット取引システムを開発、運用を開始しました。国内では、先行する他社から約2年遅れての13番目の参入でしたが、ネット専業証券としては、国内初となりました。

松井証券のIT化投資は、2001年度に24億円、2000年度の売上高は80億円強,社員数は153人で、企業規模からみると非常に大きな投資といえ、成否のわからないネット証券への移行は、大きなリスクの伴う決断でありました。

投資とともに、証券システムは、多額の売買を瞬時に遂行させることが求められ、リスクの高いものでもあります。松井証券もオンライン証券事業を始めた直後は、システムダウンが発生、数10分の停止だが、数万件の取引修復のため社員が徹夜、解決に半年かかったとのことです。また、2004年3月には、松井証券のインターネットFXサービス「NetFx」で取引成立(約定)が18秒遅れ915万円の損失をこうむったとして顧客が提訴、2013年10月16日、東京地裁は、松井証券に、個人投資家に外国為替証拠金(FX)取引での損失分200万2千円を支払うよう命じています。

営業マンを全廃、ネット証券に多額の投資をするなど、他社では、決断するのが難しく容易に追従できません。インターネット専業証券となれば、顧客はインターネットでしか取引をしない、証券外務員を通じ、証券会社経由での取引をする顧客は切り捨てることになり、これまでのビジネスモデルを全否定することになるのです。